物語を物語る
≫忠臣蔵
歴史ミステリー小説「東毛奇談」 第5章 4
「まあ龍ちゃんのことだからそういうだろうと思ったぜ。よしここは見方を変えて、高師直役つまり討たれる奴が織田信長であれば、討ったのは光秀ということになるだろう」
「つまり由良助は高師直を討った。光秀は信長を討ったから、高師直=信長であれば、由良助=光秀が成り立つというわけですね」と真船が補足した。
「そうなる。それじゃー、大序をもう一度読み返してみようぜ。兜改めの場面で、四十七人の兜首があって、どの兜首が義貞のものか判らない。そこで以前義貞に仕えていた塩谷判官の妻である顔世御前が、見覚えのある兜を探すこととなり呼び出されてきたわけだ。ほどなく義貞の兜は見つかった。その決め手となったのが、ここにあるように義貞が兜に名香をたき込んでいたことによってだった。その香木というのが蘭奢待だな。じゃーこの蘭奢待って何だと思う?」
琴音は素早く電子辞書をカバンから引っ張り出して、「らんじゃたい」と入力した。「えーと中国から渡来した香木で、東大寺正倉院に所蔵してある門外不出の御物である。これまでに切り取った人物は、足利義政、織田信長、明治天皇で、他にも足利義満、徳川家康も切り取ったという説があり……」
「そうつまり蘭奢待を手にした人物は、天下の覇者といってもいい。となると、義貞は全く蘭奢待とは関係がないことになる。それに劇中では蘭奢待はここでしか登場していない。この後のストーリー展開上、必要な小道具や伏線として使われているわけでもない。となると、なぜ作者は物語りと関係ない蘭奢待をオープニングの大序で出してきたかだ。さっきも言ったけどよ、話の筋に関係ないものほど、そこに作者の隠れた意図を示しているのではないかということだ。よしここで少し頭を働かせてみようじゃねーか」
「つまり由良助は高師直を討った。光秀は信長を討ったから、高師直=信長であれば、由良助=光秀が成り立つというわけですね」と真船が補足した。
「そうなる。それじゃー、大序をもう一度読み返してみようぜ。兜改めの場面で、四十七人の兜首があって、どの兜首が義貞のものか判らない。そこで以前義貞に仕えていた塩谷判官の妻である顔世御前が、見覚えのある兜を探すこととなり呼び出されてきたわけだ。ほどなく義貞の兜は見つかった。その決め手となったのが、ここにあるように義貞が兜に名香をたき込んでいたことによってだった。その香木というのが蘭奢待だな。じゃーこの蘭奢待って何だと思う?」
琴音は素早く電子辞書をカバンから引っ張り出して、「らんじゃたい」と入力した。「えーと中国から渡来した香木で、東大寺正倉院に所蔵してある門外不出の御物である。これまでに切り取った人物は、足利義政、織田信長、明治天皇で、他にも足利義満、徳川家康も切り取ったという説があり……」
「そうつまり蘭奢待を手にした人物は、天下の覇者といってもいい。となると、義貞は全く蘭奢待とは関係がないことになる。それに劇中では蘭奢待はここでしか登場していない。この後のストーリー展開上、必要な小道具や伏線として使われているわけでもない。となると、なぜ作者は物語りと関係ない蘭奢待をオープニングの大序で出してきたかだ。さっきも言ったけどよ、話の筋に関係ないものほど、そこに作者の隠れた意図を示しているのではないかということだ。よしここで少し頭を働かせてみようじゃねーか」
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歴史ミステリー小説「東毛奇談」 第5章 1
第5章 仮名手本忠臣蔵のこと
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余白だらけのA4用紙をひらひらさせながら、琴音は深いため息をついた。
その用紙の中央に「兜がすべてを物語る。新田、光秀、仮名手本忠臣蔵」とだけ、小さな文字で書かれていた。
また雨月からの伝言だ。この手紙は、各々真船と琴音の会社に宛てて送られてきた。正確にはFAXで送信されてきたのだ。天狗も進化していると見えて文明の力を取り入れたらしい。これで謎掛けは、真船のものを含めて3枚目となる。
真船と琴音が東京の寺社を訪ね歩き、本能寺の変の新説を聞いてから1ヵ月が経っていた。季節も梅雨の時期に差し掛かろうという時期である。この間、互いに電話やメールで連絡を取り合っていた。
琴音はしばらく雨月からのFAXを頬杖しながら眺めた。ただ字面だけを追ってもナゾナゾではないので解けるものではない。そもそもどういう意味で書かれているのかも見当がつかなかった。ともかく真船と連絡を取ろうと、携帯電話を手にした。
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余白だらけのA4用紙をひらひらさせながら、琴音は深いため息をついた。
その用紙の中央に「兜がすべてを物語る。新田、光秀、仮名手本忠臣蔵」とだけ、小さな文字で書かれていた。
また雨月からの伝言だ。この手紙は、各々真船と琴音の会社に宛てて送られてきた。正確にはFAXで送信されてきたのだ。天狗も進化していると見えて文明の力を取り入れたらしい。これで謎掛けは、真船のものを含めて3枚目となる。
真船と琴音が東京の寺社を訪ね歩き、本能寺の変の新説を聞いてから1ヵ月が経っていた。季節も梅雨の時期に差し掛かろうという時期である。この間、互いに電話やメールで連絡を取り合っていた。
琴音はしばらく雨月からのFAXを頬杖しながら眺めた。ただ字面だけを追ってもナゾナゾではないので解けるものではない。そもそもどういう意味で書かれているのかも見当がつかなかった。ともかく真船と連絡を取ろうと、携帯電話を手にした。