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歴史ミステリー小説「東毛奇談」 第6章 5

物語を物語る

「三百六十万両もの大金があったとすれば、薩長も徳川幕臣も血なまこになって探すはずだが、その痕跡は微塵もない。誰も問わないし、問われない。明治維新後も、徳川御用金の行方に対して特別な行動を起こしていないし、埋蔵金として埋められている場所を掘り返すなどといったことはしていない。というより無関心なんですよ」
「それこそ埋蔵金なんてないっていう証拠さ」
「でも今日は徳川埋蔵金を否定するだけじゃ駄目なのよ。雨月の『今はない』という問いに答えなければならないんだから」琴音が疑問を投げかけた。
「そうですね。そこまでに辿り着くまで大分かかりそうですけど……」
「まあ気長にやろうや」と弦さんは言って、血がサラサラになるという話題の新商品「そば茶」をのペットボトルのフタを開けた。
「それでは、まず自分が徳川埋蔵金伝説に対して、最初に疑問を感じたところから始めましょう。それは、勝海舟が言った一言です。1867年4月11日江戸城は無血開城をした。官軍は江戸城に乗り込むと、城内の御金蔵に向かい鍵をこじ開けた。しかしそこには千両箱はおろか小判が一枚も無かった。そこで官軍側は、応対に出た勝海舟を問い詰めた。『まさか、御金蔵は空で通そうというお考えではあるまいな。さような馬鹿げたことが通用するはずがない。さあ、中にあったものをどこへやったか、返答をいただきたい』と詰め寄った。『さて、それがしもないとは思わぬが、金の事は一切、勘定奉行の小栗上野介殿が取り仕切っておられたので、小栗殿に聞かれよ』と勝海舟は答えたという。この場面は埋蔵金で必ず取り上げられますが、こんなおかしなことはない。何故か誰も言わないが、この時すでに小栗上野介は官軍側に斬首されているんです」真船は真摯な表情を琴音に向けた。
「えっ、ウソ(年表を確認して)本当だわ。どうなっているの」
「つまり勝海舟は死人に聞けと言っているんだな。笑っちまうのは、数日とはいえ死人が幕府の財政を見ていたことになる。いくら幕府が傾いていたとはいえ、小栗が江戸城を辞するのは2月28日、この一ヶ月半の間だれも御金蔵の管理をしていなかったのか。しかも御用金の管理を引き渡すのにそういうチェックをしなかったのか。ありえねー話だな」弦さんは呆れ気味に言った。
真船が引き継いで言った。「普通なら考えられないですね。もっと不可解なのは、官軍の態度です。ここまで東征のために兵隊を動かし、兵器を揃え、軍費は膨大なものになっていたんです。多額の借金を抱え、新政府を樹立するにも金がかかるはずである。江戸城の金を当てにしていたのは間違いない。勝海舟に金がないと言われて、あーそうですかと簡単に済ます問題でもないはずですよ。それに問題なのはその後も官軍は金の行方を追及していない」
「もし赤城山にあるのならまず一番に掘り起こすはずよね。だって官軍にしてみればトップシークレットの情報を聞きだせることができるわけなんだから」
「そうです。噂だとしても調査ぐらいはするはずでしょう。でも官軍、その後の明治政府が江戸城にあったはずのお金について調べるようなことはしていない。全くのお構いなしなんだ。御用金の追及は江戸城の勝海舟との問答だけしかなんです」
「それは不思議ね」
「官軍に金が無かったのは事実です。例えば、こんな話があります。東海道を江戸に向かって進軍してきた官軍は、駿府城までやって来た。ここに幕府の軍用金があると当てにしていたんだ。が、御金蔵には一七〇〇両しかなかった。これでは5千いた兵を動かすことができない。なんとそのまま釘付けとなり、一ヶ月も動けずにそこに留まってしまった。このままではどうにもならないというんで何とか豪商から五千両を調達してきて、やっと動きだすことができた。ただ一ヶ月もの間に飲んだり食ったりしたしたんで、ツケが六百四十両にもなってしまった。しかしね、この飲食代を払うことなく踏み倒して、そのまま進軍していったというのです」
「まあこの件だけでも官軍に金のないことは分かるぜ。空っケツの官軍は進軍しながら、その土地土地で資金を調達していたから、当然のように江戸城の御用金を当てにしていたんだ。だが実際、御金蔵は空っぽだった。それなのによー、あまりにも呆気ねー追及だよな。怪しいぜ」
「官軍が御用金の行方をはっきりさせなったからこそ、埋蔵金伝説が生まれたのね。それで伝説だけが一人歩きを始めたことになる」
「そうですね。それにさっきの勝海舟と官軍との御金蔵のやり取りが、江戸城引渡しより前の4月4日であったという話もあります。この日は江戸城で勅使橋本実梁・柳原前光と西郷隆盛ら数十名が勅旨を伝達しに来たんです。でもこれだともっとおかしなことになります。小栗を捕縛したのが4月5日、小栗を斬首したのが4月6日となっているから、御用金の在り処を知る小栗を捕まえておきながら問い詰めることなく殺していることになる」
「でも江戸と上州とでは距離があるから、小栗を捕まえた官軍は、江戸城の事情を知らずに斬ったのでは?」
「そうとも言えるが、それにしても急過ぎるのが逆に変だ。現場の暴走という事でこの件を片付けようとしたんじゃねーのかな。これは陰謀だよ。どうやら俺と千ちゃんの答えは同じようだな」
「そうですね。自分の推理としては、小栗が江戸城を辞した後に御金蔵の金の動きに変化が起こったと思います。当然、小栗はこのことを知らない」
「それに、この計画が表ざたになるのを恐れて、慌てて小栗を斬ったんだろうな」弦さんはぽつと言った。その言葉に真船も頷いた。
「じぁー小栗ではない誰かが金を動かしたことになるわ」
「そうだな。でも赤城山に埋めたりなんかしない。まして何処に隠しか分からなくなるような間抜けでもない」弦さんは断言した。
「もう一つ、小栗が金を隠そうという考えがなかった、といえる理由があります。それは慶応4年のこと。鳥羽伏見の戦いの最中、将軍慶喜は大坂城から江戸城に逃げ帰ってきた。江戸城ではこれからのことを決する大評定が開かれた。官軍と徹底的に戦うか、それとも恭順の意志を示すかで意見は二分した。小栗は主戦論派のリーダーで強固に戦うことを主張したが、慶喜は結局勝海舟らの意見を聞き入れて官軍に恭順することを決めたんです。ここで小栗は慶喜の袴の裾を押さえて再考するように懇願した。だが慶喜はそれを振り切り、その場で小栗に罷免を言い渡しました。
これほどまでに戦う意志のあった小栗には、官軍に勝つための秘策がありました。後に西郷隆盛がその作戦を聞いて感嘆するほどの見事な策であったという。まず官軍を箱根まで進軍させておいて、山道の隘路となったところで、海軍を出撃させ退路と兵站を断つ。そこに砲撃を仕掛けて、一網打尽にするというものであった。さてこれだけの作戦には多額の資金がいるというのです。戦争というのは金の掛かるものだから、主戦を主張する小栗にとって、金が手元になければどうにもならない。だから考えてみても赤城山の山奥に埋める必要がどこにあるのでしょうか」
「そうね。必要なときに手元にお金がなければどうにもならないわ」
「それに小栗が幕府の重職から辞して、上野国に引きこるといっても、その時点で幕府はそのまま残っている。しかもどう時勢が動くかなど小栗にも分かるはずがない。それなのに、江戸城の御用金を持ち出して、赤城山に埋めることなど、一幕臣の身でできる訳が無い。後世から見れば、幕府は潰れてしまうことは分かっているから、小栗が御用金を埋めてしまっても不思議ではないように見えるが、あの時点で御用金を埋蔵しょうなどと決断できる人はいただろうか。これから先が分からない、予想のできない状況だからこそ金は手元に持っていたいのではないでしょうか」
「となると、戦も起らず、小栗も持って行ってないとすれば、御用金はどこかに残っていることになるわ。じゃーどこに行ったの?」
「ハ、ハッ、ハッ、そこだな、問題は。小栗でなければ、誰が、なんのために金を隠す必要があったか、をよく考える必要があるな。そうすれば自ずと答えは見えて来る」
「やはり小栗を排除したのは恭順派しかないわね。だって、官軍が攻め上がって来るんですから、そのままお金を取られるのを指を咥えて待っているのもおかしな話ですもの。……そうなると埋蔵金伝説の大元は勝海舟ということになるじゃない」
「そうだ」真船と弦さんが同時に答えた。
「要するに、小栗はスケープゴートにされた。これは明白だな。スケープゴートの本来の意味っていうのは、聖書にある『贖罪の山羊』のことで、民衆の不満や憎悪を他に逸らすための身代わりといわれる。この責任転嫁は政治技術で多くあり、社会的弱者や政治的小集団が対象に選ばれる。まさに小栗は政争に敗れてこの状態となった。全く可哀相な奴だぜ」
「小栗が江戸城の御用金を持ち出して、山中に隠したという事にされたわけね」
「つまりこの政治技術を行ったのが徳川幕府であり、新しく政権を握った薩長・官軍でしょう。徳川の御用金については、幕府側と官軍側とで既に話がついていたと思います。その結果、小栗はその犠牲になったということです」
「確信があるのね」
「そうです」真船は自信あり気に答えた。
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