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歴史ミステリー小説「東毛奇談」第6章 9

物語を物語る

「つまり勝海舟は御用金使用目的の決定権を握ったというわけね。でもなぜお金を隠しておかねばならなかったの?」
「幕府も官軍も、外国や豪商に莫大な借金があったから、金があると彼らに知れたら、返済を迫られてしまうかもしれない。そんな理由も考えられます」真船が答えた。
「もちろん全額返せるような金額はないだろうが、手元にまとまった金を持っていたいという心理はあるだろう。時勢は急変していて、これから先なにが起るか分からんからな。だから埋蔵金伝説は必要だったんだ」
「それで、小栗は殺されなければならなかったの」
「小栗が生きていたら、この計画は成就しない。それに計画を知っていたのは、それほどいないはずだから、官軍、幕府側でも江戸城御用金の行方を詮索するもの出てくるだろう。そのときに小栗が御用金を持ち出して埋めて、どこにあるか分からないとなれば、そいつらをかわすことが出来る。だからこそ徳川埋蔵金伝説が流布される必要があったんだぜ」
「でも勝海舟や西郷隆盛らが私服を肥やすためにこんなことをしたわけではないでしょう?」
「もちろんだ。諸外国に対抗して政府を立ち上げていくにも、旧幕臣8万人の生活のためにも、金は必要なんだ。そのためにはやむえない処置であったと思うよ」
「でもそのために小栗は斬られたなんて、可哀相ね」
「仕方ない。小栗も江戸を去るときには、何か起ることを覚悟していただろうよ」弦さんは相変わらず達観している。
「ではいつ幕府と官軍の間で交渉したのかしら?」
「勝海舟と西郷の会談より前に、御用金、賠償金のことは決着していたのではないかと思います。勝・西郷の会談のときには、金に関する交渉が行われた形跡がないからで、まあ確認程度のことはあったでしょうが。一番考えられるのは、山岡鉄舟が西郷に手渡した書簡の中にその内容が書かれていたのではないかと思うんです。そこには賠償金の提示と引き換えに江戸城総攻撃の中止を求めたのではないかと……。というのも、山岡と会った西郷の動きが突如として慌しくなるからです。それまで官軍の進みは動きが遅かったんですが、それからが急変します。二日間で駿府から江戸まで進軍してから、13、14日に勝との会談して話を取りまとめ、15日に参謀会議を経て、17日に有栖川宮に報告。大総督府の意見をまとめて19日に上京、今度は京都で降伏条件を承認させると、22日には京都を出発して25日には駿府に着き、29日には江戸に舞い戻った。この性急な西郷の動きは凄い。ただこの間に幕府との金の話は一切出ていないんです」
「戦争を終了させるために、賠償金の授受は必要なことだ。それが全くないということだな。戦いに勝ったのにその戦利品がないということだな」
「でも江戸城は手に入ったし、当時は賠償金を貰うなんて習慣がなかったんじゃないの?」
「そんなことはない、戦いに負ければ、賠償金を払うということは行われていた。例えば、生麦事件でイギリスに賠償金を12万ポンド・約40万両を薩摩藩の代わりに幕府が支払っている。長州も米仏蘭の艦船に砲撃した下関事件後に諸外国の攻撃を受けて屈服して条約を結ばれた。この中にも確りと賠償金の明示があった。つまり和解のときに金の話合いを行うことは常識なんだ」弦さんが軽くいなした。
「このとき、官軍側の借金は膨大となり、幕府の金をあてにしていた。官軍にとって金や賠償金は重要項目であったはずなのに、幕府側に強く追及した様子がない。これは不可解です。勝海舟は幕府御用金を切り札として交渉したのではないでしょうか。江戸を攻めれば、御用金を残らず持って、官軍側に渡さないとか決意を示したんじゃないかと……。官軍側にも、これ以上戦費を使う余裕もないし、無傷で江戸を手に入れられれば、それはそれで好条件でしょう」
「それに戦争を続ける金が幕府にも官軍にもなかったんじゃないかな。案外この辺で戦争を止めようと言う人が出てくるのを待っていたんだぜ」
「そんなものかな」
「そうだぜ、勝海舟も西郷隆盛も根本的な考えは同じだからな。どうやって国内動乱を収拾するか、その落としどころを探っていたに違いない。だから後は金の問題さ。将軍慶喜の処遇も大きなことだが、これからの日本という点に立てば、金の問題は重要だぜ」
「でも御用金の行方に関しては何か証拠はないの」
「それがないな。秘密裏に行われていたことだろうから証拠はないだろう。公式文書として残っているはずがないし、あったとしても消されているさ」
「実際この時期のことは隠されていることが多いんです。勝海舟と西郷の会談についても、本当のことは分かっていないんです。なにしろ会談した場所も今もって特定されていなんです。三田薩摩藩邸説や高輪薩摩藩邸説、池上本門寺説など諸説ある。しかも勝の同伴者についても異論がある。大久保一翁であったとか、山岡鉄舟であった、いや勝海舟単独で会談したとか、本当のところ詳しいことは伝わっていないんです。だから内容自体も伝えられている通りか分かっていないんですよ」



「じゃー今までの話もどうか分からないわね」
「これは自分の想像でしかなかもしれないけれども……。ただ官軍と勝海舟との間に御用金についてのやりとりがあったのは間違いないと思う。それは官軍側の不審な行動がそれを示している。急遽、小栗を斬った点、御用金について全く追及していない点などだよ」真船は強調した。弦さんも大きく頷いた。
「分かったわ。徳川埋蔵金伝説などウソだということだけは、今のところ認めるわ。それでは、徳川御用金の一時保管場所はどこだと考えているの?」
「そうですね。その前に、小林久三氏によると、埋蔵金には一定の法則があるという、これを基に検証していきましょう。龍舞さん一つ一つ読み上げてみて下さい」と真船は言って、琴音に箇条書きに書かれた用紙を手渡した。
「えーとまず、①埋蔵金の運搬には舟が利用される」
「これは同感だな。徳川埋蔵金が通説の360万両もの大金になれば、運搬する荷も大量になるはずだからな」弦さんが納得した。
「馬10に対し舟1の割合で荷物が運搬できるといいます。しかも陸路をとれば人目にも目立つし、かくして埋めるという埋蔵金の役目を果たせない。しかも財産を埋めるという事態は政情不安定であるわけですから、馬荷が数十、数百にも連なれば、かなり危険な状態であります。しかし舟であれば数艘で済み、人手も日数も陸路を取るときよりも掛かりません」真船が解説を加えた。
「ではやはり川を下って運んだと見ているわけね」
「それに赤城山埋蔵金伝説ではこの点は困難だ。つまり江戸城から川を下って運んでも、川から陸揚げしてから、赤城山山麓までかなりの距離があるからです。それでは次を読んで下さい」
「②埋蔵場所は神社仏閣の敷地に埋められる。埋蔵金は総じて権力が不安定な時代に埋められる。仮に権力者が支配している土地に埋めたとしても、権力が他に移ってしまえば、土地を掘り返すことが出来なくなってしまう。神社仏閣ならば、権力者が変わろうが関係ない。一種の不可侵領域であり、神や仏の祟りを恐れて、そのまま手付かずで残される。また神社仏閣は、地形がほとんど変わらない。神社仏閣が作られる場所というのは、昔から地震や洪水などの自然災害から最も安全なところが選ばれてきた。謎文や絵地図を残しても、地形が変わってしまっては役に立たない。深山幽谷の奥深く埋めてしまうというのは、ありそうでいてない、まずないと思われる。財産が莫大であるほど運搬は困難を極め、掘り出す際も同様。必要に応じて掘り出さなければならないのだから、いくら安全そうに思えても、そんな場所は選ばない」と琴音は読み上げた。
「全くだ。異論を挟む余地などない」と弦さんは頷く。
「これは重要な指摘なので憶えていて下さい。では次を」
「③大掛かりな土木工事を起こす。土木工事を行えば、土を掘り返し、それを運び出しても不自然ではない。財宝を埋める際の偽装工作といえる。……これなんかは赤城山埋蔵伝説の根拠の一つになっているわね」
「大掛かりな土木工事はむしろ囮だよ。裏の裏をかいたのさ。御用金を埋める必要がないことは何度も言った。だから赤城山と言わず徳川埋蔵金伝説はすべてカモフラージュだぜ。でもその辺のことを埋蔵金信奉者にいくら言って分からないだろうな」
「では次の④謎文や絵地図については、九星学が用いられる。今ではなじみが薄いが、明治以前までは、九星学は庶民の常識だった。九星学は陰陽道であり、九星を五行と方位に配し、人の生年に当てはめて吉凶を占うもの、とあります」
「さてこれは問題ですね。埋蔵金を解く鍵が陰陽道や謎文が必要だという固定観念があります。埋蔵金探しの必須項目というべきものですから。またこれがないと雰囲気が出ないというのもあるんじゃないかな。それだけ、埋蔵金と謎文はセットになっているんです。確かに他の埋蔵金伝説には必要あるでしょうが、この徳川埋蔵金に関しては必要ないというのが自分の達した説ですけどね」
「同感だ。徳川埋蔵金の暗号文なんかは偽装工作だから解読されない、いやできない方が計画者には都合がいいことになる。幕末、明治ともなれば陰陽道などは旧式となり、急速に欧米文化が取り入れられる。俺には徳川埋蔵金伝説を形作る物証がウソ臭く思えてならない。どうも稚拙な感じがするんだ。もし、伝承のように小栗が赤城山に埋めたとしても陰陽道や九星学なんか用いるかなー。小栗は幕府随一の数に強い男で、アメリカ視察まで行って、外国の文化に触れたんだ。フランス人やイギリス人の交渉にも引けを取らなかったという。それが今更、絵地図に謎文を使うかどうか。俺には小栗と埋蔵金がどうも結び付かないんだ。小栗の伝記なんか読むと、御用金を山に埋めるような愚かなことをする人物とはとても思えねーんだ。幕府が倒れる最後の最後まで小栗が財政を握っていたとしても、埋蔵するような事は発想しないと思うんだがな。どうだい?」
「埋蔵金伝説に小栗が関わっていないのは、確かね。それじゃ次の⑤だけど、読むわ。埋蔵金には二種類ある。目的によって、埋蔵金の性格は二つに分かれる。一つは当座の軍資金に必要な埋蔵金。これは簡単に掘り出せるような場所に埋められる。二つ目が、御家の再興資金という性格を持ち、この埋蔵には知恵を絞る。こちらのケースには謎文や絵地図が残されることが多い。以上の五カ条です」
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消えた二十二巻

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