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歴史ミステリー小説「東毛奇談」 終章 7

物語を物語る

「そうとしか考えられない」と言った真船はまさしく真剣そのものだった。
「でも二人を引き合わせたのは、別に埋蔵金や仮名手本忠臣蔵の謎を解かせるためだけじゃないだろう。理由は他にあるはずだぜ」
「じゃーいったい何処に聞けばいいわけ。それに肝心の雨月はどこにいるの?」答えの出ない質問を琴音は繰り返した。
「それは最初の謎掛けにあると思います」
「つまり『世良田東照宮は何故東を向いているのか』ということか。それで千ちゃんはその答えが分かったのかい」
「大体は、でも世良田に行ってみなければ、確信は得られないと思います。すべての答えを解いてからでないと、その最終問題に向き合えないのではないかと考えていたのです」
「そして今日すべての答えが出揃ったわけね。しかもそれは真船さんひとりの問題ではなく、二人揃って立ち向かわなければ、雨月の思惑は分からないというのね」
「そうです。きっと雨月はそこで自分たちが来るのを待っているはずです。いや最初からそこにいたのかもしれません」
「でその場所は?」
「もちろん、世良田東照宮です」



三人の議論が一つの結論に達したときには、既に深夜になっていた。そのまま三人はテレビ局の仮眠室で夜を明かした。
早朝、真船と琴音は局を出ると、地下鉄に向かう。そこから東武伊勢崎線に乗り、太田を目指すことになった。決戦の場所に行くためにー。
弦さんもそのままテレビ局の仮眠室に泊まり、翌朝、花嫁の父のように手を振り二人を見送ってくれた。早朝のテレビ局玄関前としては、少々風変わりな光景だった。守衛さんも苦笑していた。
「雨月がなんて言ってくるか楽しみだぜ。案外徳川埋蔵金がまだ残っているなんて言ったりしてな。そのときは、その金で映画でも撮ろうぜ。新門辰五郎がいい、いや井上武子なんてのもいいかもな」と一人ではしゃいでいた。
それでも最後は心配だったのか「雨月が変な問題でも吹っかけてきたら、すぐ電話してくるんだぜ」と言ってポケットから真新しい携帯電話を出した。そして自分の携帯電話番号を書いた紙を琴音に渡した。あんなに携帯がなんだかんだ言ってたくせに、と思いつつも、弦さんの心意気というものが感じられて、心が温かくなった。

午前十時、二人を乗せた急行列車が太田駅に着いた。
駅前の有料駐車場に停めてあった真船の車に乗り込み、一路世良田に向かう。琴音は、車窓から流れる田園風景を眺め、その向こうに見える山並みを見ながら、今までの出来事を振り返った。初めて新田に来てから半年近くが経過していた。家康のことや仮名手本忠臣蔵、徳川埋蔵金と数多くの謎に取り組んだが、いまでは遥か昔のことのように思えてしまう。自分が義貞と内侍の末裔であったという衝撃がすべてを押しやってしまったのだろうか。
それに不思議と、琴音自身が内侍となってしまったような感覚に襲われた。その空想が次々と脳裏に浮かんでは、琴音の心を掻きむしる。白昼夢にも似た取りとめなさでありながら、一方では自分が過去に体験したような不思議な感覚を覚えたのである。まるで仮想現実のようであった。それに涙さえ溢れてくる。それは悲しいといった感情ではなかった。何かが満たされてくるような涙であった。
真船はその涙に気付いていながらも知らないそぶりをしているようだった。

30分ほどで目的地の尾島町の世良田に入った。
その間に、何台もの選挙カーが騒がしく通り過ぎていった。市長・町長・市議会選の統一地方選挙は目前と迫っていた。スピーカーから流れる選挙応援は熱を帯びていた。候補者らしき人の顔は決死の形相であった。誰彼となく手を振る姿は、悲愴感さえ漂う。
あれほど躍起に政治家なって、一体何がしたいのだろうか、疑問よりも疑惑さえ浮かぶ。

世良田東照宮の隣にある駐車場に車を止め、通い慣れた道を行くように、石砂利を踏みしめて、拝殿のある方に向かう。
そこに懐かしい音が風に乗って聞こえてきた。隣接して建っている中学校からの何時間目かの始業のベルだった。琴音にとって、この地は何もかもが郷愁を誘う。
境内を行くと、竹箒で社務所の前を掃く一人の老人がいた。琴音が前に訪ねたときも、落ち葉をかき集めていた人であったのを憶えていた。何しろ背が高く、印象が深かった。
「すいません」と真船がその老人に声を掛けた。老人はゆっくりと振り返った。その顔を見た真船は、驚きのあまり後ろに仰け反ると、琴音に聞こえるくらいにハッと息を呑んだ。そして一言、「あまつき」とだけ声に出した。
「そんなに驚くことなかろう」と言った声は甲高く、鋭い視線を真船と琴音に向けた。
これが噂の天狗なのかと、琴音は雨月に負けないくらいジッと見た。確かに猛禽類のような眼光、外国人のように高い鼻、それに大きい口は口角が上がっていて、天狗というものがこの世に存在していたならこんな感じになるといった印象であった。ただ琴音にはその顔が恐いといった感じよりも、どこか愛嬌があるように思えた。琴音は勝手に烏天狗を想像していたので、案外人間じゃんと思った。
「成るほど、姫様の方が落ち着いているわい」と雨月は言い放つ。
真船は天狗と会う心の準備が出来ていなかったと見えて、まだまだあたふたとしていた。
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by AlphaWolfy

消えた二十二巻

Author:消えた二十二巻


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