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歴史ミステリー小説「東毛奇談」 終章 9

物語を物語る

「まさにそこは、新田義貞が討ち死にした灯明寺畷や藤島神社のある場所だ。藤島神社は、新田義貞を主祭神として祀り、弟脇屋義助や義貞の子義顕・義興・義宗がともに祀られている。そして越前で新田一族は多くの血を流した。新田一族にとってその地はかなりの思い入れがある場所なんです。つまり世良田東照宮で拝むということは、主祭人徳川家康を拝むと同時に、新田を拝むことをも意味しているんだ。これは天海が義貞の願文の約束を果たした、という証しではないかと思うんです。そして世良田東照宮は、新田一族を慰め・癒す装置であるといえるのではないでしょか」
「これが答えね」琴音が雨月に聞き返した。
雨月は満足した答えを得て、大きく頷いた。
「さあこれでいいでしょう。教えて下さい。わたしたちを引き合わせ、ここまで呼び寄せた意味を」琴音は答えを要求した。琴音の中では問題と答えはセットなのだ。それはクイズを考える職業病だといえた。答えのない問題など存在しないのだ。
「ここまで来るのに、選挙カーに何度もすれ違っただろう。それが答えだ」雨月は禅問答のようなことを言った。これでは、相手の質問には答えていなのと同じだと、琴音は目をむいた。その横で真船は、いつものことかと雨月の腹の内を探るかのように様子を窺っていた。
「いい加減にしてください。私が義貞の末裔、真船さんが世良田氏の末裔なら、そのように最初から言えばいいじゃない。こんな回りくどいことしなくても!」琴音は雨月の煮え切らない態度に、遂に怒った。
雨月はそれには全く取り合わずに、高らかに哄笑して言った。「それで君らは本当に、自分たちが新田の末裔であることを自覚できるのか。まず無理だ。自ら資料を集め、その頭で考え、その足で各地を踏みしめてこそ、身のうちに吸収されていくのではなのかな。これは他人ごとではないと知ってからでないと、これから起る本当の意味を理解できない。それに、おれが君らの前に現れて、そのことを告げたとしても、あーそうですかということで終わってしまうだろう」
「そうかもしれないけど」琴音は妙に納得してしまった。でもそれだけが答えではないはず。これから起ることとは、それが頭の隅に引っ掛かった。
「さっき選挙がどうとかこうとか言ってましたけど?」
「選挙。そう、それこそが今ある最大の危機だ。まさしく合併問題、これがこれから起ることだ」雨月は琴音の目を真っ直ぐに見据えて、言い放った。
「それと私たちと何の関係があるの?」
「それが大ありだ。何しろ新田が消えようとしているのだからな」
「それっていうのは合併で新田の町名が消えるということですか?」真船が質問した。
「それだけじゃない。地名がなくなるということは、その町の文化も消えるということなのだ」
「でも、まだ町の名前が消えるといっても地区名とかで残るんじゃない」
「まだ分かっとらんな。名前の持つ重大性を。またこうゆうものを大切にしない所には文化は根付かない。見せ掛けの文化で満足するようじゃ、歴史は残らんぞ。見ただろう、太田の大光院の前にある門を」
「何?」と琴音は真船に聞いた。
「それは、大光院の参道にはかつて、この寺を象徴する大きな赤門があったといいます。しかし道路拡張工事のために、赤門は撤去され、代わりにコンクリートの門が代用として建てられた。しかしこれがどう見えても山門や鳥居に見えない。これに反対して今でも赤門を復活させようという住民の声があるという問題なんです。確か新聞に載りました」
「あれは何だ。電柱と変わりがない。愚かなことだ。参道の門も寺院の一部であることを忘れたのか。これは現代の歴史物への無関心さだ。簡単に片付けたくない。あれは見てくれの文化だ。また問題なのは、そういうことを受け入れる土壌が根付いていたことにある。それはいままでこの東毛の地が自己を否定することで生き延びてきたからもしれない。室町・足利時代は、新田一族の出身地としての誇りを捨て、足利幕府に擦り寄る形で生き残った。そして徳川時代は祖先の出身地として栄えたが、幕末になると、徳川の聖地というのが仇になる。しかし新田一族が尊皇・忠臣・南朝であったことから、官軍に受け入れられる。ここでも徳川を否定して生き延びる。その後、新田は忠臣の鑑として持ち上げられる。時代は下り、太平洋戦争後は、戦時教育の悪しき思想として、新田=天皇崇拝として否定されたのだ。だからこの地には歴史に対する誇りを持つことがなかったのかもしれない。もちろん新田伝承を持つ寺社・神社は現存し、整備も一応されているが、訪れる人も少なく、酷い所は、荒れ放題で寂寥感が漂っているんだろう」
「そうね。ただ過去の歴史に無関心なのは、この地だけではないでいしょうけど……」確かに琴音が新田遺跡を訪ねたときに感じたことであった。そこには時代の節目に登場し、権力者に利用され捨てられる新田の無念・哀れさが漂っているかのようであった。
「それに今問題なのは、東毛の地が、新田氏の本拠地であることさえ忘れさられようとしていることだ。その危機は目前に迫っている。それに土地の名前さえ消し去ろうとしている」
「それで私たちは何をすればいいの?」
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by AlphaWolfy

消えた二十二巻

Author:消えた二十二巻


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