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歴史ミステリー小説「東毛奇談」 終章 10

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「いいか一旦失われたものを元に戻すのは難しい。いやもう戻らないだろう。今、合併という名の文化破壊が始まろうとしている。建造物や遺跡など形のあるものは復元できる。しかし地名や名前とかは一度でも消されれば、忘れ去られ、永遠に消滅してしまう。語り継がれていかなければ二度と現れることはない。このことに誰も異論を唱えないのも問題だろうな。経済効果という安易な合併はその土地の歴史を消し去るのだ。いいか全国に吹き荒れている合併問題を、なぜみんな真剣に考えないんだ。合併といってもその中身は、地方の市が周辺の町や村を吸収するだけ、それに2,3の周辺の町村をくっ付けてみました、みたいなものばかりじゃないか。
そんなことで地方は活性化するのか。合理化がその地域の人々を本当に幸福にするのか。そんなものは幻想に過ぎん。それに合併すれば、もとあった地名も消滅する。このことの恐さについて誰も感じていない。外国のことを例に出すのはあまり気が進まないが、出しておこう。日本が3千の市町村に対して、アメリカには3万の町がある。フランスも人口5千万に対して3万以上の市町村名がある。しかも住民はなく、教会しかない場所でも町の名前を残しているというじゃないか。これは文化に対する意識が高いのと、名前の持つ重みを知っているからに他ならない」
「だからといって私たちになにができるの。選挙に立候補して合併を阻止しろというの」
「そんなことを君たちに期待するほど私は間抜けではない。ただこういうことがある。合併前に、新しい市名案を募集する住民投票が行われた。その公募条件の但し書きの欄にはこう書かれていた。『太田市であれば新市名変更に関わる費用を軽減することができます』と。このことこそ、名前の持つ意味、歴史を軽視する愚かな考えだ。まあお役所仕事はこんなものだけどな。それにも増して、合併という経済優先の波は思っている以上に強力で、この風潮を止めることは難しいだろう。そしてこのままいけば、新田という名前を残すことは出来んだろう。でも……」
「でも出来ることがあるというのね。とにかく新田伝承を守れということかしら。私たち新田の末裔が……」
「君たちが伝承者となり、守り伝えていくのだ。私は老いた。時間もない。それに新田一族ばかりに構ってもおれんからな」
「あなた天狗なの?」
「ふっ、俺か、俺は児島高徳の末裔だ。いうなれば、天狗山伏の伝統を伝える者だ」
「それでか……闇の歴史を知っているのか。しかも内侍とその子供を東毛に連れてきて見守っていたのは高徳だったはず」
それには雨月は答えず、冷笑を浮かべながら言った。「それで君たちはすべての謎を解いたと思っているんだろうが、まだまだ天海や家康の謎は一部しか覗いていないのだ」
この言葉に琴音の好奇心が刺激された。
「例えば全国に東照宮といわれるものはいくつある?」
「約300ですね」真船が即答する。
「よしその中で天海が関係したものは?」
「うーんそれは分かりません」
「ではそれらの東照宮はどこを向いていると思うかね?」
そうなると見当もつかない。首を傾げて考えても分かるものではない。各地の東照宮を見て回るしかなさそうだ。
雨月は「そうだろう、そうだろう」と言いながら東照宮拝殿に向かって歩いて行く。
雨月はそのまま拝殿の中に入って行った。何か資料でも持って来るのかと、二人はただその後ろ姿を見送った。5分経ったが雨月は出てくる様子がない。二人は駆けて拝殿に行き、中を覗く。そのときには、雨月の姿は既になかった。
ただ抹香のいい匂いがした。
「自分で調べろということね」琴音は言った。
「そのようですね」
「今何時?」
「まだお昼前ですけど」
「行ってみましょうよ。日光東照宮へ」
「えっ、あっ、はい」真船は琴音の強引さに気圧されながらも快い気分がした。
「最初は日光。次はどこかしら、久能山、川越、岡崎……いろいろあるわ。きっと知らなくちゃならないことがまだまだあるはずなのよ」新田を引き継ぐ者としての自覚が芽生えて来たのか、琴音はふつふつと生きる意義を得たように晴れやかな気分になる。
真船と琴音は車に乗り込んだ。一路、北に向かう。クーラーをかけたまま、窓を全開にして、車内に新鮮な空気を入れた。
心地よい風を二人は吸い込んだ。そして流れる風が琴音の髪をかき上げる。
真船は運転しながらふと隣を見た。琴音の首筋にホクロがあるのを再発見したのだ。そのときなぜか心が和んだ。そこにあることを遠い昔から知っていたような気さえした。
夏の風景が車窓を過ぎていく。選挙応援の車とすれ違ったが、けたたましい声も執拗に連呼される候補者の名前も、二人には遥か遠くでしているような気がした。

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by AlphaWolfy

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