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歴史ミステリー小説「東毛奇談」 終章 12

物語を物語る

新田荘に入った一行は、早速、一族の有徳者である得河郷の正田隼人の庇護を受けた。また新田氏に味方する者や、天狗山伏の協力もあり、足利方に知られることなく、隠棲できそうであった。
世良田二郎三郎も義貞の挙兵以来、新田一族として、ともに戦ったので、帰郷も五年振りとなった。久しぶりに帰った故郷は少し荒廃していた。南朝方新田の本拠地として、足利方の襲来を受けたものと見られる。それとも、働き盛りの男共は戦地に赴いていて、閑散としているのかもしれない。
腰を落ち着けてから数日後、二郎三郎は内侍と山吹姫を連れて、義貞ゆかりの地を案内した。円福寺、反町館、長楽寺などを見て回り、その都度、義貞の話をする。また金山にも無論行った。頂上の城には足利方の武将が入っていて山頂までは登ることは出来なかった。しかし見晴らしの良い、中腹あたりまで行き、一々指し示して、上州の山々を説明した。それが越前で見た白山の山々と重なったのか、内侍は憂いの表情を見せ、感慨を新たにしたようであったのが、決して泣くようなことはなかった。その表情を見ながら、二郎三郎は内侍の首筋に黒子を見つけたのである。
また幼い姫には、何故神社や建物を見て回るのか、その意味は分からないだろう。父親である義貞の顔を見ることはなかったが、その内に事情が分かってくるだろう、と二郎三郎は思いを深めるのであった。
戦場を離れて故郷にいると、二郎三郎の心にふとよぎるものがある。左の眉の上にある矢傷をさすりながら物思いに耽る。これが二郎三郎の癖だ。大将義貞と同じところに矢傷があるのをいつも自慢したものである。いまではそれも感傷でしかない。
(義貞殿は往生したのだろうか。もしや、死の瞬間に未練を残し怨霊となったのではないか。愛宕山に雲集する怨念を残す者と同様に、後醍醐天皇の眷属となって、この世に仇を為そうと画策しているのではないだろうか)と疑念が浮かぶ。
義貞戦死のとき、二郎三郎は越前河合の本営にいた。しかも義貞が督戦を兼ねて一騎駆けしたときには、その直前までその傍らに控えていたのだ。あのとき引き留めておけばと、今でも後悔の念が残る。また義貞と付き添い出陣していれば、大将と一緒に灯明寺畷で死ねたものを、という思いが同時に湧き、常に次郎三郎の心を苛めていたのである。
(怨霊、いやそんなことはあるまい。きっと西方浄土の調べに乗り、極楽浄土に旅行かれたであろう。……いや、本当にそうだろうか)
答えのない問いに、自ら反論する。
京からの逃避行で時宗僧に成りきったせいか、柄にもなく、魂の行方について深く考えた。またそのことが頭の中を占拠していた。それもこれも、義貞死後は、どこか戦う意味を失い、生きる価値を無くしていたからだろう。ただ今は華々しい死に場所を求めているのだった。
そう思いを巡らしているとき、二郎三郎は児島高徳を訪ね、義貞の魂の行方を問うてみた。山の民であり、山伏である高徳の答えは仏教的考えである輪廻転生などとは少し違った。
「思えば、義貞殿の人生は、疾風のごときに駆け抜けていった。戦場を駆け、闇夜を駆け、そしてあらゆるしがらみから逃れようと駆けたのであろうな」
「ではその束縛から解放された魂魄は今どこに行ったのでしょうか。我は気になって仕方ないのです」
「今か?。それは難しい問いだな」と頑丈そうな下顎をさすりながら高徳は考えている。
そのとき椋鳥がけたたましく鳴きながら一群を成し、山に向かって飛んで行く。その方向に目を遣ると、山々が長閑に見えた。
「よいかな。椋鳥というのは害虫を食する益鳥と云われながらも、その鳴き声から京童が田舎者を嘲って云うこともあるという。新田一族らも京人から見れば、田舎武者の東夷に見えたであろうな」
「それが何か」
「鳥も事が済めば、巣に戻る。ならば、あの椋鳥のように己が巣に帰っていったのではないかな」
「人の魂も肉体が滅びれば、故郷に帰るというのでしょうか。ならば義貞殿のみならず一族の魂はここに帰ってきているというのか」
その問い返しに、高徳は大きく頷いて、話を続けた。「山に籠もって修行していると、ときに精霊の存在を感じるときがある。それは不思議と心安らぐものであった。霊魂は、決して、世を拗ね恨んでいるものではなかった。生きている間に縛られていた煩悩から解放されたような清々しささえあった。人の魂とは元々汚れのないものなのかもしれぬ。ゆえに人は死ねば、その魂は自然に帰っていくのだと思うがな。肉体が滅びれば朽ちていつしか土に返る。ならば行く場所を失った魂は、生まれた所に帰るのではないかな」高徳はじっと相手の目を見つめて語った。二郎三郎の心にあるしこりを取り払うように……。
またその答えは二郎三郎を氷解させた。「故郷か」と一言呟いて、遠くに望む山々を見た。そして目を閉じ想像した。義貞ら一族が、莞爾として、思いのままに馬を駆けさせている姿が浮かんだ。そして耳を澄ませば、蹄の音まで聞こえてきそうだった。目を開け再び山々を見ると、椋鳥の一群は稜線の彼方に消えていた。
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by AlphaWolfy

消えた二十二巻

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