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歴史ミステリー小説「東毛奇談」第1章 4

物語を物語る

だが雨月の話はこれで終わらなかった。
「では、一番初めに戻ろう。義貞の太刀投げとは何であったのか。そして竜に何をしたかだ」そうだった最初はそんな話であった。
「天狗山伏に関係している義貞だから、海の神である竜神に祈願するにはなにか特別な方法があったのではないでしょうか。たとえば塩乾珠を投げたとか……」
「そこじゃよ。混同してはいけないのだ。確かにさっきも出たが神功皇后が海水を引かすために投げたのが塩乾珠である。しかし義貞が投げたのは黄金作りの太刀だ。全然違う、だいたい義貞は塩乾珠などもっていない。それにいくら竜に祈念したとしても、塩乾珠でもない限り潮など引かない。竜というのは気まぐれでな、高僧の空海でさえ雨乞い祈願を三日もして、ようやく竜が聞き入れたのだから、一武将にそんな法力はないであろう。ましてこの竜神は北条氏の氏神といってもいい間柄、それを滅ぼそうとやって来た者の話など聞くものか。それに一方の義貞側にしてみれば一刻も早く鎌倉に攻め入りたい。戦が長引けば、北条氏も体勢を立て直し、守りをより堅固にしてしまう。それに足利高氏の動きも心配だ。足利ひいきの武将が本格的に鎌倉攻めに参陣してくればその手柄も奪われかねない。義貞にとっては一刻の猶予もならない。そこで手っ取り早い方法はないかと考えた」
「その方法とは」真船は息を呑んでその答えを待った。
「それは、竜を遠ざけたんだよ。どんな方法か教えようか」なんともったいぶった言い方。大体言いたくてしかたないという感じだ。いままでも言いたいことをいっていたではないか。この雨月という老人はきっと教え魔だろう。
「『和漢三才図絵』の銅の項目にこういう記述がある。『銅には牝牡がある。銅が火中にあって尚赤いとき、童男・童女に水を灌がせれば、銅は自ずから分かれて両段となる。凸型にたつものが牡で、凹型にへこむものが牝である。牡で雌剣を作り、牝で雄剣を作り、これを身につけて江湖に入れば、蚊竜・水神みな畏れて避ける』とある。銅は金銀と同一の根源のものである、ともしている。また、鉄の項目では、獏は鉄を食べるが、蚊竜は鉄を畏れる、とある。つまり黄金作りの太刀とはこうだ。竜の嫌がる方法で剣を作り、それを罔草、センダンの葉、五色の糸で包んだ太刀だ。それを竜に投げたのだー。無論義貞に竜神を遠ざける太刀を作れるはずはないがな」
「ではだれがそれを作ったのですか?」
「天狗じゃよ」
「まさか」真船は冷静になろうと努めた。
「まあ聞け。北条氏最後の執権である高時は、ある夜の酒宴で数度の盃を傾け酔った。そして立ち上がると自ら舞を舞った。するとどこからともなく十余人の田楽法師が忽然と現れ、高時をはさんで歌い舞い始めた。『天王寺のや、妖霊星を見ばや』とはやしたてた。意味は天王寺の妖霊星が現れて、世の乱れるのを見たいものだ、ということだ。その声の面白さに侍女のひとりがのぞいてみると、それは田楽法師ではなく、嘴が曲がってトビのようであり、体に翼があってその姿は山伏のようであり、ことごとく妖怪変化が人間に姿を変えていたものであった。侍女はあまりのことに人を呼び、武士がその場に駆けつけると妖怪どもはかき消え、高時ひとり酔い潰れていた。座敷をよく調べてみると天狗が集まっていたらしく、踏み汚した畳の上には鳥獣の足跡がたくさんあった。こいつらじゃよ、竜を遠ざけたのは、天狗は乱世を好み、いつしか世の中の主役になろうと虎視眈々と狙っていたのだ。しかしあのとき高時の姿は滑稽であったな」
「まるで見てきたようですね」
「そうかもしれん」
「えっ」と小さく叫んで、聞き返そうとしたが、雨月の鋭い眼光にいいすくめられて、言葉を失った。雨月はどこ吹く風のごとく高笑いし袂から扇子を取り出すと暑くもないのに、ぱたぱたと扇ぎ始めた。 
この老人の詭弁に言いくるめられ、洗脳されているようであった。ここで怪しげな壷を出されても、思わず買いますと言ってしまいそうだ。
「信じられんようだが、では義貞の最期はどういうものであったろうか」
「確か、越前灯明寺畷で、敵の流れ矢にあたり、もはやこれまでと悟った義貞は自らの首をかき切って自刃した」
「ではその辺りを見てみよう」といってかばんから使い込んだ地図帳を出した。北陸のページに折り目がついていた。すべては予定通りらしい。
「現在の位置でいうと、福井県福井市の福井駅南西1km,足羽山東麓あたり、今は新田塚町と呼ばれ、義貞を主祭神として藤島神社が鎮座しているあたりだ。ではもう一度、義貞の最期を確認しておこう。敵兵に囲まれた義貞の騎乗する馬が深い水田に足を取られた。そこに馬に矢が刺さり、倒れた馬の下敷きになり、足が抜けなくなった。そこに致命傷というべき矢が額に刺さる。よし、ではこの水田はどこから水を引いているのかな」
「そうですね。地図からいえば足羽川ということになりますね」
「そうだ。この足羽川は九頭竜川の支流にあたる。九頭竜……その名の通り竜神伝説のある強力な竜じゃ」
「もしや……」聞いてはいけない、いや聞きたい。でも聞いてしまったら後には引けない、そんな気がした。
「竜は復讐しにきたんだ。無論、竜にとっては悪ふざけ程度だがな。われらにとっては重大な損失だ。だがな問題なのはなぜ竜が食いついてきたかだ。だれかが燕の肉を義貞につけたとしか考えられん」
「そんなことした人物がいたんですか」
「きっといた、かならずな。あのとき、義貞に付き添った家臣すべてが自刃するか、討ち取られた。ただ一人を除いては……。その一人とは、馬廻りの下郎でただ一人生き残って本陣に帰り、義貞の討ち死にを伝えた。すると新田軍は戦意喪失して、離脱する者、足利方に寝返る者が多く出て、三万いた兵は二千にまで減った。また身内の中にも謀反の心を抱く者が現れ、城に火を放つということが一夜のうちに三度もあった。北陸落ちした義貞も、苦難の末、遂に越前制圧が目前に迫っていたのだ。しかもこの時期、南朝方の京への大反撃が計画されていたのだ。このタイミングでの義貞の死はなにか意図的なものを感ずる」
意外なことを聞かされた真船はしばし呆然としていた。しかし冷静になってくると、竜の復讐なんて話は信じられるはずがない。
「あまりにも現実離れしていますよ。現代においてそんな話だれも信じません」
「そうかな、きみ、真船君には分かるはずだ。今は分からなくとも、よく考え調べればな……。そして真船君、きみがこれからすることも、何を託されているかも分かるはずだ」
またもや真船は沈黙させられた。(託されたことって何なんだ)
反論しようとしたときドアをノックする音が聞こえた。相馬だった。ドアを少し開け、真船を手招きした。真船は雨月に断り、室外に出た。
「デスクが呼んでいる。もう限界だぞ」
「わかってる」といった声が妙に興奮していたので、相馬が大丈夫かと声をかけた。「後5分だけ」と相馬に告げて、真船は部屋に戻った。
しかし雨月という老人の姿は忽然と掻き消えていた。
(どこから出た)ドアの外には真船と相馬がいた。(羽でもはえて飛んでいったか)
奇妙な話を聞かされ俺もおかしくなったかと自嘲ぎみに呟いた。室内のテーブルにはすっかり冷えたお茶が入った茶碗2つと雨月が置いていったと思われるメモがあった。
そこには「なぜ世良田東照宮は東を向いて建っているのか」と書いてあった。
そのときフト足下を見ると、鳥の羽が数枚と鳥の足跡のようなものが残っていた。(一体何なんだ)何度も疑問を自分にぶつけるが、答えなどない。自分で探せということか。
相馬は真船が惚けたような姿なので大丈夫かと声をかけてくる。それでも真船は自分の席にどうにか辿り着き仕事にとりかかろうとするが、先ほどのことが頭から離れない。
(東照宮って、今までそんな話してなかったじゃないか。東照宮は徳川家康を祀る神社で義貞となんの関係があるんだ)
そんな疑問を自分にぶつけながら、老人からもらった名刺をもう一度見た。
「あまつきつねたろう」何度か小声で言ってみる。「あまつきつね たろう」
「あっ」と思わず声を上げた。『天狗太郎』あまつきつね、とは天狗の古い読み方であった。
その容姿は、高い鼻、鋭い猛禽類のような目、尖った口、そして扇子をもち、高笑いをする。しかも教え魔だ。あの老人はまさに天狗そのものだ。確か住所が書かれていたはずだ。東京都港区愛宕町、えっ愛宕町。その住所を調べる。愛宕神社だ。愛宕の天狗は最強で愛宕山太郎と呼ばれていたはずだ。雨月常太郎は天狗だったのか。と思う一方、現代的な理性が沸き起こる。そんなはずはない、からかわれたんだ。手の込んだ冗談だ。じゃあなんで俺のところに出てくるんだ。何のために、と思い雨月の置いていったメモをよく見た。そこには他に、家康改姓、新田伝承後継者と書いてある。
(ますますわからん) と思いながらも頭の中であらゆる知識が駆け巡り、思考が交錯する。しかし何一つつながらない。
そのときだれかが真船の肩をたたいた。振り向いたそこにカラスのような天狗が立っているような気がした。そして、何も分からないのか、と恫喝されそうな気がして真船はビクンとした。何度も肩をたたかれて、ついに後ろを振り向いた。
そこにいたのは猛禽類のような目をした雨月ではなかった。見慣れた顔がそこにあった。いつも眠そうな目つき、大きな顔に釣り合わない小さな口、それらの造形は真船を一気に現実へと引き戻した。デスクの杉山だった。彼はあきれたような顔をして一言だけいった。
「記事はまだか」
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by AlphaWolfy

消えた二十二巻

Author:消えた二十二巻


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